「建築設計事務所の種類」
敷地が無事決まって、どのような種類の高齢者施設を建設するかが決定すると、次はいよいよ建物の設計の段階に入ります。建物の規模や構造や法律など、専門知識が必要な作業ですので、いよいよ私のような建築設計者(一級建築士)に相談される段階に入ります。
また、場合によっては建物の種類や大きさが決まっていても、それを建設する敷地が決まっていない場合もありますので、—規模に見合った敷地選定のお手伝いをする場合あります。そこで皆さんが思うことは、「一体、誰に頼めば良いのでしょうか?」ということでではないでしょうか。 日本には様々なタイプの建築設計事務所があります。以下に設計事務所の種類について簡単に説明いたします。
築設計事務所の種類
1. アトリエ事務所
個人の建築家(アーキテクト)が主宰する事務所。自らの美学的見地・論理
的分析にもとづいて建築物を「作品」として設計する。
2. 設計監理組合方式
個人で設計事務所をそれぞれ経営する一方、組合を結成して設計業務を行う形式。地方に多い互助会的組織。
3. 組織設計事務所
比較的大きな大型施設設計専業の会社組織。組織力を背景にあらゆる施設の設計を行う。
4. ハウスメーカー
自社仕様の住宅などの設計、技術開発を行う。個人住宅に限らず、マンションや高齢者施設など、様々な施設の設計を行なっている企業もある。
5. 建設会社設計部
「設計施工」を請負った場合に設計を担当する。いわゆるゼネコンの設計部を指す。
6. その他
各種コンサルタント、不動産会社など。設計事務所登録はしているが、実際の設計は外注することが多い。
設計事務所の定義は大変曖昧ですので、一概に全てを言い当てているわけではありませんが、おおよそ上記のようなタイプ分けが可能です。
ちなみに私はアトリエ事務所を主催しております。アトリエ事務所は「建築家」が独自の理念を持って建築を「作品」として生み出し、社会や未来に向けて普遍的な建築の可能性やデザインを新たに生み出し、建築関係紙面で自らの作品を発表し、建築賞などで施設が社会的に評価されることによって信頼を得る努力を常にしています。もちろん他のタイプでもアトリエ事務所的な理念を持っている事務所もあります。
上記のどのタイプの建築設計事務所でも一級建築士事務所である限り相談にのって建物を実現することが可能ですが、いくつか注意が必要です。建築設計事務所は大変広い範囲の建物を扱っていますので、実際にはそれぞれの設計事務所や担当者に、建築の種類によって得手不得手があります。例えば病院や学校ばかり設計している場や個人住宅ばかりを設計している場合などです。
高齢者施設は個人住宅ではありませんので、不特定多数の人が利用する公共性や、運営側の要望である機能性を第一に考えなければいけません。設計者の選定に際しては公共性の高い施設への理解やバリアフリーや補助金獲得のための知識、依頼者の運営ソフトを具現化する能力なども重要となります。
組織が大きくて法人実績に高齢者施設が載っている場合でも、実際にその物件に関わった技術者が辞めてしまって在籍していない場合もあります。逆に小さな個人事務所であっても実績がある大変優秀な設計者もいます。そこには設計者個人の能力が問われてくるのです。
高齢者施設の建設には大変お金がかかり、依頼者にとっては一世一代の大事業でしょう。それでは全ての「設計事務所」が同じような崇高な理念を持っているのでしょうか?残念ながらそのような依頼者の気持ちとは裏腹に、利益主義で理念無き設計者が大変多いことも事実です。
そこで、第2回「建築におけるデザインの意味」で私がお話ししたことが大変重要となってきます。
建築家の仕事の根幹は設計行為ではなく「完成させるためのアイデアを出す」ことであり、建築デザインでは依頼者と設計者の間にキャッチボール(コミュニケーション)という「力学」が働いているので「動詞」であり「継続的な創造及び思考活動」なのです。
打ち合わせが事務的で夢や要望実現への努力が見えない場合、打ち合わせの機会が極端に少ない場合、過去の実績に継続的な創造へのチャレンジが見られない場合は要注意です。設計者はいかに立派な組織であっても「満足」を依頼者に与えることはできないでしょう。
ここで書きました内容を是非参考にしていただき、竣工までの長きにわたる良きパートナーとなる設計者の選定にお役立ていただければ幸いです。
次回は、私が初めて大型の高齢者複合施設を設計し、その後の仕事の嚆矢となった「ハートホーム平川」を例に、なぜ我々アトリエ系事務所が選ばれ、そこに依頼者が何を期待されたかをご紹介してまいります。