第5回 生前贈与贈与を有効に使って生前に財産移転を実現
贈与という言葉は一般的によく使われますが、法律的には贈与者が無償で財産的利益を与えるという贈与者と受贈者の合意により成立する「契約」です。
しかし、贈与契約は、一方的に贈与をする者が、贈与を受けるものに利益を与える契約であり、「無償契約」と呼ばれる類型の契約です。ですから売買などの「有償契約」より効力が弱く、書面によらない贈与はいつでも取り消すことができる、とされています。ただし、書面によらない場合でも、履行に終わった部分は取り消すことができません。例えば、不動産の贈与では、不動産の引渡しがあれば登記がすんでいなくても所有権が移転したと解されています。
相続との関係では、贈与を上手に利用すれば、相続人間の相続争いや相続税の軽減を図ることができます。まず、被相続人が死後に多額の相続財産を遺すと、その分割を巡って相続人間で争いが生じる可能性があります。そこで、自分が生きている間に、自分が贈与したいと考える相手に小まめに財産を贈与することで事実上、被相続人の「意志」を実現することができます。例えば、推定相続人である子供が結婚、自宅の購入、孫の教育資金等でお金が一番必要な時期に、一定額の財産を生前贈与すれば、生きている間に受贈者に感謝されて贈与者も贈与のしがいがあります。ちなみに現在、1年間にもらった財産の合計額が110万円以下であれば原則として贈与税はかかりません。
他方、相続が発生した場合には、こういった被相続人が生前に行った贈与、つまり生前贈与が問題となることもあります。まず、特別受益、という問題が発生することがあります。例えば、生計を支援するために相続人の一人に、生前贈与で財産を先渡ししていた場合には、それは、相続分の前渡しがされたものとして特別受益に該当します。そして、遺産分割において、特別受益を受けた者の相続分が減らされる(持戻)ことになります。
現実に問題となるのは、相続人の一人だけが大学に行かせてもらった、というような事案で、大学の学費・入学金については、「子に対する扶養」の範囲を超えるものが特別受益として評価されると考えられます。
こういう問題を回避するためには、生前贈与したうえで、さらに遺言を残す、ということになりますが、遺言については遺留分、という問題が発生します。遺留分については、別にご説明する予定としておりますが、簡単に言うと一定の相続人には、侵害できない相続分を認める、という制度です。そして、生前贈与がなされていた場合、遺言書上では遺留分の侵害が発生したように見えても、生前贈与の取り分を含めると遺留分を侵害していない、というケースもありますし、遺言書上では遺留分を侵害していないように見えても、生前贈与を含めると(この場合は相続発生前1年に限定されます。)遺留分の侵害が発生している、というケースもあります。ですから、生前贈与を上手く活用したうえで、きちんと生前贈与も視野に入れた合理的な内容の遺言を残しておくことが重要なのです。