暮らしに役立つ法律用語 第26回「筆界確定訴訟」

第26回「筆界確定訴訟」

 前回まで、筆界特定申請、境界ADRといった筆界ないし境界を定めるための手続をご紹介してきました。境界問題が難しいのは、本来境界(筆界)そのものは行政が決定するものなのですが、その境界によって区画された土地は個人の財産権そのものだ、ということです。端的な話、何千万円もした土地の境界を行政の判断で勝手に変更されてしまったのではたまったものではありません。

 そこで、従来から、公法上の境界に関しては、最終的に訴訟を提起して裁判所にどこが境界であるかの確認を求めることができる、と解されています。ところが、この境界を確定する訴訟は、普通の訴訟とはちょっと性質が違います。例えば、貸したお金を返せとか、建物を明け渡せ、という訴訟は私人間の紛争で、どちらの言い分が正しいか、つまり権利の有無を裁判所が判断するわけです。ところが、境界を定める、という訴訟は、行政が決めた境界が誤っていることを裁判所に判断してほしい、という訴訟で、一般的な権利の有無を決める訴訟ではありません。法律上、こういった性質の裁判を「形式的形成訴訟」というのですが、これは、裁判所がいわば後見的に公法上の境界を決める裁判、といった意味です。そして、境界の問題は所有権という私人の権利と密接に関連しているので、裁判を経ないと最終的には境界がどこにあるのかが確定しない、と考えられています。

 この訴訟を正式には「筆界確定訴訟」というのですが、近時、筆界確定訴訟の件数は大幅に減少しています。その一番の理由は、以前ご説明した「筆界特定手続」の存在です。往年の境界紛争は、登記所にあまり精度の高くない図面が保管されていて、その図面は登記官が全く関与したことがない、という状況でしたので、私人間の境界紛争は最終的に境界確定訴訟によるしかなかったのです。ところが、最近は測量技術も進歩して、筆界特定手続によって当事者から昔の筆界に関する資料も提出されますので、相当の確度をもって登記官の認識する筆界を明らかにすることができます。これによって境界紛争の相当部分はその時点で終結していまします。また、筆界特定手続を経ないで筆界確定訴訟を提起しても、裁判官としても筆界特定手続が行われていて境界に関する資料が明らかになっていた方が判断しやすいので、別途筆界確定を申請することになる可能性が大です。つまり、筆界特定制度がうまく機能していることによって、筆界確定訴訟の件数が大幅に減少しているのです。

 こうご説明すると、筆界特定訴訟という制度は意味がないのではないか、という感じも受けるかも知れませんが、ごくまれにですが、裁判の結果、筆界特定制度で特定された筆界が覆ることもあります。また、筆界特定では時効の問題は全く関知されないのですが、実際の境界紛争には必ずと言ってよいほど取得時効の問題が絡んできますが、裁判であれば時効の問題も含めた解決が可能です。そういう意味では、筆界確定訴訟は土地の筆界を決める究極の手段である、ということができます。

以 上

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