暮らしに役立つ法律用語 第25回「境界ADR」

第25回 「境界ADR」

当事者同士の話し合いで円満な解決へと導く

前回ご説明した「筆界特定手続」は、いわば法務局に境界を決めてもらう手続きなのですが、話し合いで境界を決める、ということも可能ですし、境界問題は隣地との関係がありますのでできるだけ話し合いで解決することが望ましいと思われます。

ところが、そういった場合、勝手にとなり同士で話し合いをして「ここが境界だ。」と決めてしまっても、法務局で受け付けてもらえない可能性があります。というのは、土地の境界は、公けに決まっているもので、私人間の話し合いでこれを動かすことはできない、とされているからです。そこで、こういった場合に便利な制度として、「境界ADR」があります。
 ADRは、「裁判外紛争解決手続」のことですが、裁判になってコストがかかったり長期化することなく、当事者間の話し合いで紛争を解決するための制度です。その基本的な法律として平成16年に「ADR法」が定められ、境界に関するADRとして、各都道府県に境界ADRが設置されています。境界ADRは、各地の土地家屋調査士会が運営主体となっており、土地家屋調査士、弁護士などが調停委員になり紛争の解決にあたります。ADRの申立はご自分でもできますが、代理人を付ける場合には、弁護士と土地家屋調査士の共同受任になるのが原則です。そして、境界ADRにおいては、裁判手続きに準じて、当事者から境界に関する主張や証拠を出し合って、土地家屋調査士会で選任した調停委員が双方の言い分と証拠を聞いたうえで、どこかに合意できる解決手段はないか、を探ることになります。
境界ADRにおいては、土地家屋調査士が関与しますので、紛争の解決にあたって当事者間で合意する境界が、公法上の境界(筆界)とずれているかどうか、という目処が立つのが一番のメリットです。また、前回このコラムでご紹介した筆界特定手続は、あくまで公法上の境界について特定するだけの制度ですから、時効の問題には全く触れません。ですから、筆界特定しても紛争解決につながらない可能性もあるわけです。これに対して境界ADRにおいては、時効の成否も含めた柔軟な解決が可能となります。具体的には、一定の範囲の土地を、取得時効を原因として分筆して移転登記する、と言った内容や、それに伴って相手方が和解金を支払う、といった解決も十分想定されます。
 境界ADRの手続きは、法律上は民間の紛争解決(和解)をあっせんするものであり、当事者間に合意ができた場合には、和解が成立することになりますが、ADRで話し合った内容で当事者がどうしても納得できない、という場合には、調停不成立、ということになります。その場合は、筆界特定の申請を行うか、あるいは「筆界確定訴訟」を提起して、裁判上で筆界を確定するほかない、ということになります。
以 上

 

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