美しい高齢者施設をつくる 第2回「建築におけるデザインの意味」

「建築におけるデザインの意味」

コラム名にある「美しい高齢者施設」という言葉は「デザインが良い高齢者施設」と言い換えることができます。それでは「デザイン」とはいったい何でしょうか? 辞典を紐解くと「デザイン」という言葉の意味には「名詞」と「動詞」があります。

・ 「名詞」のデザイン(物事のかたち、外観、外見、容姿、見かけ)
・ 「動詞」のデザイン(新たな物事を考え生み出す行為)

人は建築家が設計した建物を見て「美しい、奇抜だ、変な形だ」などといった表現をします。最近では「クールだねー!」とか「かわいい!」といった表現も多く聞かれるようになりましたが、これらはデザインを見た目の状態である「名詞」で表した言葉であり、ここに「建築家は変わったものを作る人」といった誤解が生じてしまうのです。建築デザインとは人間の活動や行為を取り込む空間を思考する作業ですので、一言で表すと以下のように定義されます。

「建築デザインとは人間の生活をより豊かにする空間を生み出すために行われる継続的な創造及び思考活動である。」

この定義では、建築デザインの本質は空間を創造する活動であるといった「動詞」としてとらえ、求められるものは「思想や理念や方法論」であり、過去に学び未来につなげる継続性なのです。

次に「動詞」のデザインを依頼者である皆様の立場から説明してみましょう。

建築のように依頼者からオーダーを受けてから受け手が案を作り製品を完成させる物事は数多く存在します。(例:家具、器、料理、洋服、アート、建築)

洋服、家具などの場合は通常依頼者が生地や素材、自分らしさを表現できるイメージをオーダーした段階で(細かな修正があるにせよ)すでに形が明確な場合が多く、依頼者が「完成」に導いていきます。また、料理やアートの場合はメニューや欲しいイメージといった曖昧な状態で依頼者からオーダーが発せられ、以降は作り手が勝手に「完成」させます。料理中に厨房に行ってコックにイチャモンをつける客は稀でしょう。

それでは建築の場合はどうでしょうか?

建築は意匠・機能・構造・設備・法律など極めて専門性の高い要素の集合体です。初めから依頼者が「完成」を示すことは、よほどの知識人でない限りありません。かといって建築家が一人で「完成」させることもありません。双方が時間をかけてキャッチボール(コミュニケーション)を繰り返した結果、その先に「完成」が見えてくるのです。

また、建築家の仕事の根幹は設計行為ではなく「完成させるためのアイデアを出す」ことであると言えます。(設計製図だけを行う人は建築家ではなく設計士もしくは製図屋と言います。)

建築デザインでは依頼者と設計者の間にキャッチボール(コミュニケーション)という「力学」が働いているので「動詞」であり「継続的な創造及び思考活動」なのです。建築デザインの本質についてご理解いただけましたでしょうか。

次回から高齢者施設のバリエーションや地主様やデベロッパーなど民間でも参入可能なカテゴリーについて説明いたします。

20150510 yoshida

「膨大なスケッチとスタディー模型の先にデザインが見えて来る」

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