暮らしに役立つ法律用語 第19回 死因贈与

以前、このコラムで生前贈与についてお話しましたが、「死因贈与」という制度もあります。死因贈与は、法律的には「死亡を停止条件として効力が発生する   贈与」、つまり相続発生後に効力が生じる 贈与、ということです。

死因贈与は贈与の一種で、贈与は法律上あくまで契約ですから、贈与の相手方との間に「死因贈与契約」という合意が成立していることを死因贈与が有効となるために必要です。

死因贈与と似ている制度として「遺贈」がありますが、遺贈は贈与の相手方との合意がなくても有効ですが、その代わり遺言の中で行うことが必要になります。つまり、遺贈は贈与者が単独でできまますが、その代わり遺言という面倒な要件をクリアする必要がある、死因贈与は自由にできますが、相手方との合意が成立する必要がある、ということになります。ですから、ご自分の死亡後になんらかの財産を相続人以外の者に贈与したい、というのであれば、きちんと遺言書を作成してその中で「遺贈」をしておく方が手堅いということができます。

死因贈与が特に問題となる場面として、遺言が無効な場合があります。例えば、自筆証書遺言にサインはあったがハンコが押していなかったとか、立会人が法律上の要件を欠いている(推定相続人を立会人にしてしまった!)などの場合です。こういった場合、遺言としては無効であって、遺言者つまり贈与者ですが、その意思は明確なのだから死因贈与として有効になる余地があります。このように、ある法律行為が法律の規定に違反して無効であっても、別の法律行為としての効力を認めることを「無効行為の転換」と言います。ただ、無効行為の転換が認められるためには「別の」法律行為としての要件を満たす必要があるわけです。

死因贈与の場合については、先ほど述べたとおり、合意の成立が要件になりますので、贈与を受ける相手方と合意があること、が必要です。と言っても、そのハードルはあまり高くありません。判例上、無効な遺言が死因贈与として有効とされた例がありますが、概ね、相手方がそういった遺言の内容を知っていれば契約として成立するとされています。ですから、特に自筆証書遺言などでは、遺言の存在とその内容をあまり秘密にするのも考えものかも知れません。

また、遺言と無関係に死因贈与をしたい、という場合には、書面にしておく必要があります。遺言は、無償契約、つまり対価のない契約ですので、贈与者は原則として何時でも撤回可能であるとされています。例外として、書面になっている場合、及び履行に着手された贈与は撤回できない、とされていますが、死因贈与の場合、贈与者の死亡後に効力が発生しますので履行に着手されている、ということは考えられないわけです。ですから、書面になっていないと、死因贈与をした者の承継人つまり相続人から撤回されてしまう可能性もあるわけです。
以 上

目次