暮らしに役立つ法律用語 第16回 限定承認

第16回 限定承認

負債の清算に有効な面も

相続の放棄ないし承認という制度では、とにかく相続財産を資産も負債もひっくるめて相続するかどうか、イエスかノーか、という判断を迫られるわけではありません。

特殊な相続の承認として、「限定承認」という制度があります(民法922条)。限定承認をした場合は、相続財産に属する資産の範囲で債務を支払う、ということになります。したがってまた、共同相続人が数人いる場合には、限定承認は共同相続人全員で行う必要があります(同923条)。一部の相続人が単純承認してしまえば、その相続人が全部の負債を引き受けることになるのですから、よく考えれば当たり前のことです。

また、限定承認にあたって共同相続人の一部が抜けていた場合(例えば、認知した婚外子を忘れていた)には、限定承認の効果はなくなりますので十分な調査が必要です。なお、一部の相続人が相続放棄して、その他の共同相続人が全員で限定承認する、というやり方は可能です。
限定承認は、相続放棄の熟慮期間内に家庭裁判所に対して申述(しんじゅつ)することによって行います。相続放棄の熟慮期間が経過してしまうと単純承認とみなされますので注意が必要です。限定承認の申立があると、共同相続の場合は、裁判所は共同相続人の中から「相続財産管理人」を選任します。 

限定承認の申述があると、限定承認した相続人又は相続財産管理人は、相続債権者又は受遺者に対して、一定期間内(2ヶ月以上)に請求するように公告することになります。この公告期間中は、債権者に対する弁済の必要もありませんが、相続財産を処分する、ということもできません。公告期間が経過すると、法定相続人ないし相続財産管理人は、相続財産を処分して、剰余があれば相続の対象として共同相続人に分配し、債務全額の弁済に不足するようであれば一部を配当する、ということになります。この間に、債権の申し出をしなかった相続債権者または受遺者は、その後権利行使することができなくなります。ですから、限定承認手続は一種の清算手続であると言われています。

このような限定承認手続は、使い方によっては大変便利な制度ということができます。負債はあるのだけれどどうしても相続の対象となっている不動産を確保したい、というときには、限定承認をしておいて相続財産の清算にあたって、相続人の一部が相続財産管理人から相続の対象となる不動産を購入すればよいわけです。

もちろん、購入代金を支払う必要があるのですが、それでも単純承認して債務全額を払うよりも大分安く済むはずです。しかも、あとから相続財産の債権者が現れても弁済する必要はありません。
しかし、これまでご説明したように限定承認の申述は、共同相続人全員でしなければならず、その後の手続きも面倒で、しかも相続人が財産管理をしなければなりません。そのあたりもあって、限定承認という制度はあまり利用されていないのが実情です。

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