暮らしに役立つ法律用語 第15回 相続の承認

第15回 相続の承認

相続の承認

前回相続放棄についてご説明しましたが、反対に相続を承認する、という制度もあります。相続を承認しますと、相続の対象となる資産も負債もすべて承継することになります。相続の放棄とか承認とかは相続

人個人個人の問題ですから、一人の相続人が放棄したけれど、別の相続人は相続を承認して父親の負債も払うことにした、というのでも構いません。 また、後述のとおり放棄の熟慮期間である相続の発生を知ったときから三か月が経過すると、当然に単純承認したことになってしまいますので、実務上特別に承認の手続を行うことはありません。

注意を要するのは、相続の承認には、「法定承認」(民法921条)という制度があり、①熟慮期間内に相続放棄をしなかった場合、②相続財産の一部を処分するなどした場合、③相続財産を隠匿又は消費した場合、には、単純承認つまりなんの限定もなく承認したものとみなされます。②と③に該当する場合には熟慮期間内であっても、もう相続放棄はできなくなります。

この法定承認は具体的にはどういうケースか、と言いますと、主に相続財産の処分が問題となるのですが、相続した債権の取立をしたとか、不動産を相続登記して売却した、というときは原則として法定承認になります。しかし、単に相続財産の美術品を占有しているとか、保存行為、例えば債権の時効中断のために督促した、という場合は処分ではないので法定承認にあたりません。それから③の場合ですが、相続財産を隠匿又は消費する行為は、一旦自分のものとして使ってしまったのだから、それと反する行動、つまり相続放棄は許されないというルールですから、この理屈は一般の方にも解りやすいのではないかと思います。

この法定承認との関係で問題になるのは、法定承認があったのちに、多額の負債があることが判明した場合はどうなるのか、ということです。保証債務がある場合には、主債務者が払えなくなってから保証人に請求が来ますので、相続財産を登記して売却してから相当期間経ってから保証債務の請求を受ける、ということも考えられます。

この場合、法定承認というのは、相続の開始を知ったうえでなされることが効力発生の要件ですから、債務があることを知らなかった場合には法定承認の効果はない、と考えるのが実務上の取り扱いです。ですから、保証債務があることを知ってから3か月以内であれば相続の放棄ができるのですが、相続放棄をしますとその効果は相続発生時に遡りますので、不動産の処分などをしていた場合には、なんら相続権がないのに処分を行った、ということになってしまいます。この場合でも取引の相手方は、所有権移転登記を備えていれば不動産を取り戻されることはありません。しかし、放棄をした相続人は、売買代金なりを二次相続人等に返還する、ということが必要になります。                  以 上

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