暮らしに役立つ法律用語 第13回 相続放棄

相続、と聞くとなにかの資産を相続する、ということを想像しがちですが、相続には負の側面もあります。被相続人に相当の借金があったりして資産の額よりも負債の方が多い、という場合には、相続によって借金を抱え込むだけに終わってしまう可能性もあります。こういった場合には、相続人は「相続放棄」(民法938条)と言って、相続人とならない(同939条)という選択をすることができます。

相続放棄は、家庭裁判所において「申述」(しんじゅつ)することによって行いますが、相続放棄がなされると、裁判所から「相続放棄申述受理証明書」を発行してもらうことができます。相続放棄は家庭裁判所に行ってご自分で申述することが可能ですが、不安があれば弁護士等に相談されることをお勧めします。

 相続放棄についてまず注意しなければならないのは、相続放棄は相続開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならない(民法915条1項)とされていることです。この間に相続をするかどうかよく考えて決めなければならないので、この期間は熟慮期間、と呼ばれています。この熟慮期間は、例えば相続財産にどの程度価値があって、どの程度の負債があるのか、調査に時間を要する場合などには延長することを裁判所に申し立てることができます。
 また、この熟慮期間の起算点についても柔軟に解釈されており、相続発生後3か月以降経ってから債務があることを知った場合、例えば思いもよらない保証債務が多額にあった場合などには、そのことを知った時点から熟慮期間が進行する、と解されています。
 次に、法定相続人が相続放棄した場合、相続が一切行われなくなるのではなく二次相続が発生する、という点にも留意が必要です。
 民法889条によれば、配偶者以外の法定相続人の順位は、子、両親、兄弟姉妹の順となっていますが、子供が相続放棄すれば親が、親が放棄すれば兄弟姉妹が相続人となって、それぞれ相続放棄するかどうかの判断をしなくてはなりません。この場合において、例えば子が相続放棄の申述を受理されると、そのことを知ったときから直系尊属(親)についての熟慮期間が進行することになります。実務上の取り扱いとしては、相続放棄した相続人は次の順位の相続人に相続放棄した旨の通知を打って、これによって熟慮期間の開始を明確にして早期に相続関係の安定をはかる、という取扱いがなされています。このように民法889条にしたがって、すべての順位の相続人が相続放棄して初めて相続人がいない、という状態になります。
 相続放棄がなされますと、そもそもその相続人は相続開始時点に遡って相続人となっていない、とみなされますので負債を支払う必要は一切なくなります。被相続人が負っていた税金などの支払い義務もありません。もちろんその代わり、被相続人の現金、債権、不動産等の一切の資産についても相続することはできなくなります。

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