暮らしに役立つ法律用語 第11回 成年後見

第11回 成年後見

遺言がないまま相続が発生しますと、以前ご説明した「法定相続」となりますが、どこかで遺産分割をする必要に迫られます。遺産分割はいつでもできますので、未成年の子が相続人にいる場合には、その未成年者が成年になるのを待って遺産分割するのも一つの手段です。また、必要に迫られている場合には、以前ご説明したように「特別代理人」を選任して遺産分割する、という方法もあります。

 ところが、法定相続の場合において、相続人中に成年者でも判断能力が不十分な者がいる場合には、待っていれば遺産分割できるようになる、という訳ではありません。このような制限行為能力者で問題となるのは、現実には認知症がまず考えられます。また、法定相続人中に重度の精神障碍者がいる場合も、そう簡単には精神障害が良くなって遺産分割できるようにはなりません。ですから、こういう場合には、判断能力が回復する見込みは非常に少ないので、何時までたっても遺産分割できない、ということになりかねません。

 こういった場合には、「成年後見制度」を利用して遺産分割することになります。成年後見は、往年民法上定められていた「禁治産」とか「準禁治産」と言った制度を、いわばリニューアルしたもので大分使い勝手がよくなっています。成年後見制度には、判断能力が通常欠けている場合になされる「後見」、判断能力が著しく不十分な場合になされる「保佐」、判断能力が不十分な場合になされる「補助」の三種がありますが、成年後見人は本人に代わって法律行為を行うことが認められており、保佐人は特定の法律行為、例えば、売買とか遺産分割といった重要な法律行為について本人に代わって法律行為を行うことになります。また、補助人は、本人が行う一定の法律行為について承認を与えることになります。遺産分割協議で問題となるのは、ほとんどの場合成年後見を付すべき事案です。問題は、どういう人が成年後見人になるか、ですが、一応親族がいいのではないかとか、知り合いの弁護士とか司法書士にお願いしたい、というリクエストを申立の時点で出すことが多いですが、そういう申立人から推薦された人物が後見人になるとは限りません。他の利害関係人、例えば申立人の兄弟から別の意見が出された場合などには、裁判所が独自に成年後見人を選任することになります。こういう見ず知らずの人物が後見人になることを回避したいのであれば、予め「任意後見契約」を利用することをお勧めします。

 いずれにせよ、成年後見人が付されるとその旨登記されて、本人が法律行為を行っても無効、ということになります。遺産分割について言えば、成年後見人との間で遺産分割協議を行うことになりますが、特定の相続人だけに有利になるような内容とか、成年被後見人の相続分がほとんどないような遺産分割とかについては、成年後見人が認めない可能性もありますので、注意が必要です。

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