美しい高齢者施設をつくる 第1回「選ばれる高齢者施設(高齢者住宅)を目指して」

「選ばれる高齢者施設(高齢者住宅)を目指して」

初めまして。建築家の吉田明弘と申します。私はこれまで個人住宅から公共 建築、鉄道駅舎や橋梁などの土木構造物、照明器具などのプロダクトまで様々 なデザインを行ってまいりました。

最近では高齢者福祉施設分野で革新的な施設を実現し、医療福祉建築賞などの高い評価をいただいております。この度、「美しい高齢者施設をつくる」と題しまして、皆様のお役に立てる情報をお伝えしてまいります。どうぞ末永くお付き合いくださいますようお願いいたします。

ネット上にある高齢者施設の情報の多くは主に運営者やコンサルタントの立場から発信されもので、私のような建築家の視点から情報をご提供することは稀なことだと思います。このコラムをご覧いただく皆様は主に、住宅の購入、土地活用、事業用の土地のご購入などをお考えの方々と思いますが、今後の超高齢化社会の奔流の中では全ての建築物が「高齢者施設」としての基準を満たす必要に迫られる時代やってくると考えておりますので、高齢者施設以外の施設をお考えの方にもご参考になることと思います。

私がコラムの題名冒頭に「美しい」と名付けたのには実は大きな理由があります。門外漢であった私が初めて高齢者福祉施設を設計したのは、2003年に山口県山口市に竣工した社会福祉法人青藍会ハートホーム平川(ケアハウス、デイサービス、グループホーム:写真)においてでした。青藍会は山口市における齢者福祉事業の牽引者ですが、オーナーは国内外の施設を見学していく中で、「いかにも高齢者施設的」といったマンネリ化した施設が多い状況を見て、「入居者やそのご家族が本当に望むも施設なのか?」と疑問を持ち、業界に新しい息吹を取り入れるために、あえて慣例に毒されていない私たちにお声がけをいただきました。結果は大成功で、専門に特化した設計者に無いモダンで美しいデザインは事業者と入居者双方から大歓迎され、オープニングで共感した他の法人から新たな仕事を頂くことになり繋がりました。

この時に思ったのですが、この状況は高度経済成長期から現在に至る住宅の供給と消費感覚の変化に似ています。つまり、供給する時代から「選ばれる」時代にシフトしていった集合住宅や、量産住宅の無個性から「自分らしさ」が重視されつつある個人住宅の多様化に何か似ているのです。

日本は現在「超高齢化社会」と称される状況にあり、今後2035年には3人に1人が高齢者となると推計されています。当然受け皿となるサービス付き高齢者住宅や地域包括ケアの拠点となる施設整備は急務となり、国土交通省・厚生労働省の整備目標に向かって全国で建設が盛んに行われていますが、一方で入居者が集まらない問題を抱えた施設も急増しています。理由としてサービスの不備や不便な立地などが挙げられますが、「こんな施設じゃ入りたくない。」と、思う施設が見受けられることも事実でしょう。つまり「選ばれていない」のです。

私の設計した施設は工事中に予約が一杯になり、入居が順番待ちとなっている施設が多いのですが、これは単に運が良かっただけなのでしょうか?。入居された方に理由を聞いたところ一番多かった回答が「こんな施設は他にないから」とのことでした。当然事業者の運営手腕や充実したサービス、恵まれた立地によるところが大ですが、先に申し上げた「選ばれる施設」としてのデザインの力が一助になっていることもまた確かなようです。誰でも歳を取りますが、やはり「美しい空間に住みたい」といった根源的欲求は変わらないものです。そこには建築家の提案力が求められているのです。

次回は予備知識として「建築におけるデザインの意味」のについてご説明いたします。
(私の実績については、株式会社ヨシダデザインワークショップのホームページhttp://yoshida-dw.com/をご覧ください)

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