美しい高齢者施設をつくる 第5回「初めての高齢者施設の設計。なぜ私が設計者に選ばれたのか。」

高齢者施設「ハートホーム平川」

私が初めて手がけた高齢者施設は、山口県山口市にある「ハートホーム平川」(写真)です。以前在籍していた設計事務所の主任管理建築士として関わり、今から14年前ほど前に竣工いたしました。 

実はこの仕事をいただく前に私は高齢者施設を設計したことが一切ありませんでした。 

依頼者の医療法人社団/社会福祉法人の青藍会は山口市内で数多くの高齢者施設を展開する地域のリーダーのような存在で、私が関わる前から様々な施設を建設してきましたが、いずれも医療福祉系施設を多く手がける設計事務所が建てた施設でした。言ってみれば私たちは実績のない「門外漢」のような状況だったのです。では、なぜクライアントは私たちに依頼したのでしょうか?

打ち合わせを進めてゆく中で、クライアントが私たちに依頼した理由が次第に明らかとなり、その崇高な理念と考え方に感銘を受けてしまいました。まとめると以下のようになります。

◯クライアントはこれまでの老人福祉施設にたいして施設的(病院的)な印象  
 から、入居者が真に望む「脱施設っぽさ」を目指していていた。

◯これまで我々が高齢者福祉施設設計の経験は無いが、理念を持って良い建物
 を造り続けている建築家にむしろ期待を持った。

この話を聞いて私は驚きました。まさかこんな形で建築家が必要とされているとは・・・・・。

竣工した建物を目の当たりにして、当初不安を感じ、提案に対して何かとご心配されていたクライアントの顔から不安の色がみるみる消え失せ、完成披露会では多くの方々から賞賛のことばをいただき、職員の一人は「こんなすてきな空間で仕事ができて幸せです」と涙ぐまれ、入所希望者は予約待ち状態で、入所された高齢者の中には高齢者スポーツで表彰される方が出るなど、施設としては大成功し、その後も続けてお仕事をいただくことになりました。

この素晴らしい経験によって、私は今後の活動の基盤となる高齢者施設における建築家の役割や建築デザインの重要性を見出したのです。

高齢者施設はこれまで効率優先で日本中どこも似たような画一化された施設が建設され、計画論的にも教科書的論理が流布し、同じ形式が大量生産されている状況です。私はそれが全て間違っていると言っているのではありません。ただ、暗い中廊下や窓の小さな病院のような個室など、居心地を考えた工夫が少ない施設が多い現状に対して「今後ユーザーが選ぶ時代が到来しても継続してご入居いただけるのでしょうか?」と言いたいのです。

高齢者施設は簡単に言うと「住宅」であり「サービス施設」です。入居者の視点で言えば「そこに住みたい」「そこにご両親を入れたい」となりますし、職員の視線で言えば「そこで働きたい」ということになります。そしてオーナーにとっては「地域の福祉への貢献を体現した施設を作りたい」ということになります。つまり地域からも利用者からも、職員からも選ばれる施設であることが重要だと考えています。

クライアントが建築家に期待したことは以下の通りです。

◯建築家の固定観念にとらわれない自由な発想を期待。

◯ユーザーから「こんなものが欲しかった」と言われる施設が欲しい。

これは、戦後に画一的な住宅を量産した住宅供給政策施設から、ユーザーが選ぶ時代に変わってきた現在の住宅事情と何か似ています。当然ですが前提条件として機能的でローコストで、安全な建物を設計することとなります。そもそも青蘭会は無駄に華美なものを期待したのではありませんでした。第2回でもお話しいたしました通り、建築家のアイデアや提案力を求めたのです。

今回は初めて私たちが高齢者施設を依頼された理由についてお話しをいたしました。次回は私たちがクライアントに対してどのようにプレゼンテーションをして設計を進めているかをお話しいたします。

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ハートホーム平川 全景

・ 所在地 山口県山口市

・ 用途 サイビス付き高齢者向け住宅(75戸)・グループホーム(2ユニット18戸)

・ リハビリセンター 脳活性リハビリ デイサービスセンター

・ 構造規模 RC造一部S造 階数 地上4階

・ 延床面積 4,798.21m2

・ 設計:大野秀俊+アプル総合計画事務所(主任・管理建築士として参加)

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ハートホーム平川 デイサービスから中庭を見る

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