美しい高齢者施設をつくる 第14回「建築デザインにおけるコロナ対策とは」

大変ご無沙汰してしまいました。

コロナ禍対応で私も建築家として何をするべきか考える毎日でした。高齢者施設においてもクラスターが発生するなど運営者の皆様は大変ご苦労されていることと思います。陰ながら応援しております。

前回から始まった高齢者施設の設計で重視しているキーワードはひとまずお休みにして、今回は高齢者施設における「コロナ後の住環境」について建築デザインの視点から考えてみたいと思います。

そもそも高齢者施設は人間と人間による濃密な関係がなにより大切で、リモートであるとか、機械化といった人の接触を防ぐ手段で解決することは人間の尊厳にも関わる問題であり、人の温かさをダイレクトに感じないサービスは意味がありません。

家族から離れて暮らし、さらに閉ざされた世界にいる高齢者にとってこれほど辛い状況は無いのではないでしょうか。消毒やマスクなどの個々人や運営者による対策以外で、建築デザインとしてウィルスに対して何が提案できるのでしょうか。私なりの考えを以下に述べたいと思います。

◯過小評価されてきた自然換気

建築基準法では居室の床面積の1/20以上の有効開口を持った窓の設置を義務付けています。またシックハウス対策としても24時間の換気が定められています。もし十分な大きさの窓が取れない場合は機械換気となります。

ですが、ウィルスの予防の観点として実際はどうでしょうか。

自然換気をするためには空気の入り口と出口が必要です。昔から住宅では南北(東西)2方向に窓を取り、風の通り道を作ることが言われてきました。しかし現在のマンション型のサ高住や大型施設の多くは共用廊下の存在やプライバシーの点で十分な2方向開口が取れない実態があります。

私の設計した「わかたけの杜」では住戸を戸建のように扱い、共用廊下の位置を工夫することで、南北に床から天井まであるフルハイトのサッシを設けることで光と風の抜けを取り込むデザインですが、現代住宅が失った日本家屋の良さを実現したものです。

同じ「わかたけの杜」ではアパート型の住戸もあります。この場合は共用の中廊下を持つことから2方向換気が大変難しい状況でした。

それを解決したのがアウターリビング「光庭」の導入です。光庭が北向き住戸でも室内が明るくなり、物干しにも利用されます。このような筒状の光庭や吹き抜けは高層の施設でも2方向換気を可能にします。

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南北に大きな開口を取ることで風が抜ける

アウターリビング(屋外の小さな中庭)を通して風が抜ける

◯開口部の工夫

換気のために窓を開けたい。でも丸見えになってしまう・・・・。

都市において窓の開放は結構ストレスになります。

窓の機能は採光と換気ですが、両方を満たしつつプライバシーを守る方法として昔から日本の伝統家屋で使われてきた「格子」があります。現代ではルーバーなどとも呼ばれています。京都の町屋では道に面して窓が格子になっています。外からは見えませんが中からは見える。そして直射日光を適度に抑えた光を取り込み、風も通します。

写真は現代の格子として実現した事例です。金属に細かい穴を開けたり、木の格子などを使って視線を遮りつつ風を取り込みます。

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◯「居場所」をつくる

高齢者福祉施設では利用者の個室は大変狭く、日常の生活拠点は共用の食堂やリビングとなります。同じテーブルを囲んでお話や食事をしますので、ウィルス感染のリスクは高まります。アクリルパネルによる遮蔽がレストランなどで実践されていますのでそのような対策も有効ですが、建築的な発想ではありません。

私がこれまで参加したプロジェクトでは設計の段階で現れる余白的スペース入居者の「居場所」を大切にしてきました。そもそも「居場所」とはなんでしょうか。いわゆる社会的な居場所のことではありません。

個室以外で一人もしく数人で座れる小スペースで、リラックスできる環境で、自然の光や風が感じられる自分だけの「お気に入りの場所」

といったイメージです。

通常は行政で決められた必要室以外の機能は「無駄なスペース」「コスト増の要因」などと言われて敬遠されてきました。施設は外部への自由な移動が難しい高齢者にとってまさに都市であると考えています。私の考える「居場所」は決して広くなく、廊下の突き当たりやリビングの隅にそっと存在する公園のベンチや喫茶店、あるいは小さなギャラリーのような場所なのです

このような「居場所」はちょっとした工夫で食事スペースの分散が容易となり、個室に閉じこもらずにすみ、ソーシャルディスタンスを施設内で可能にします。

開いた居場所と奥の格子のある閉じた居場所

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廊下の突き当たり。ベンチの居場所

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テラス:外の居場所

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