第10回 遺産分割代償金
遺産分割は相続発生後何時でもできますし、遺言がある場合でも相続人間で話し合って遺言と異なる遺産分割をすることも可能です。しかし、遺産分割をしないまま長期間放置しておくと、被相続人の配偶者などの相続人が死亡して二次相続が起きることもあります。ですから、遺産分割はできるかぎり早めに行っておくことが望ましいわけです。
それでは、遺産分割の実行が現実になかなか難しい場合にはどうしたら良いでしょうか?例えば、相続人としてA、Bの2名がいて、主な相続財産として甲という土地建物と乙というマンションがあるけれど、甲の方が乙よりもはるかに値段が高い、というような場合です。こういった場合、一つの方法としては、すべて売却して現金にして分ける、というドライなやり方もありますが、売却の際に税金がかかることも考えるとあまりお勧めできません。
こういう場合に実務上よく利用されるのが、遺産には含まれない現金を交付して相続人間の公平を図る、という方法です。具体的には、Aが甲を取得して、Bが乙を取得するけれど、甲、乙の価値の差を考えて、AからBに対して現金を交付するわけです。この現金は、遺産分割でAが甲という価値の高い資産を相続したことの代償として、Bに対して支払われる金銭ですから、「遺産分割代償金」と呼ばれています。しかし、遺産分割代償金は甲と乙の差額の2分の1、というように機械的に決まるものではありません。その算定にあたって留意すべき点が二点あります。第一に、税務的には遺産分割代償金も相続による資産の取得とみなされますので、Aが相続した資産は甲マイナス現金、Bが相続した資産は乙プラス現金、ということになります。
ところが、相続税の基準となる不動産の価格は時価よりも相当低いのが普通ですから、上述のような事例では、時価で換算すればA、Bともにほぼ同額の資産を相続したことになるけれど、相続税はBの方が多額に払うことになる可能性もあります。次に、不動産を相続する場合には、その不動産を譲渡した場合に課税される税金という負担も一緒に相続することになる、ということにも注意が必要です。例えばA<が甲不動産を取得して、その後現金が必要となって甲を売却すると譲渡益に対して税金が発生します。ですからAとしては、Bとほぼ同等の資産を相続したはずなのに、売却してみたら自分の方が負担する譲渡課税額がはるかに大きくて、Bより取り分が結果的に少なくなってしまった、ということにもなりかねません。このように、遺産分割代償金の算定については、相続税、譲渡税の負担を考慮して決定することが必要になります。今般の相続税制改正によって、相続税の発生する範囲が相当拡大すると予想されますが、相続税が発生する場合には、遺産分割代償金の算定も慎重に行う必要があります。遺産分割代償金による処理を検討する場合には、弁護士、税理士などの専門家にご相談されることをお勧めします。