第22回 「偽装工事は見抜けるか?」
マンションのくい打ち工事偽装問題

現在、マンションのくい打ち工事偽装問題が日本中の話題となっています。しかし、一般の方には、そもそもくい打ちって何なの?データ偽装というけれど、どういうデータ?という疑問があると思います。

そして何より、問題となっているような偽装工事はチェックして防止できなかったのか、さらには、こういう問題が起きたときどういう責任追及ができるのか、という疑問があると思います。そこで今回は、この問題について通常より分量を増やして緊急コラムとしてご説明します。

1 建築基準法と建築確認制度
あなたが家を建てようとする場合、建築業者さんと相談して勝手に家を建てればよい、という訳ではありません。我が国では、建築基準法に基づいて、どの地域ではどういう建物であれば建ててよい、という基準があるのです。一般の方でも聞いたことがあると思いますが、「容積率」(敷地に対する床面積の割合)「建ぺい率」(敷地に対する底地の割合)「道路斜線制限」(道路の反対側から一定の斜線を引いた部分は建物が建てられない規制)などが定められています。それから、一定の地区では耐火構造にする必要があるとか、一定の建物については「構造計算」をしなければならない、ということも建築基準法に定められています。

建物を建築する具体的な手順としては、まず設計をして「建築確認」を受ける必要があります(建築基準法6条)。建築確認済証がないままに建築に着手すると違法建築、ということになり、場合によっては取り壊しを命じられるおそれもあります(同法9条)。建築確認申請は、建築主事又は民間の確認機関に対して申請することになりますが、そこで建築基準法に合致しているかどうか、が審査され、最終的に建物が出来上がったのちに、「完工検査」が行われて、検査済証が発行されてはじめて建物が使えるようになるのです。

重要なのは、こういった建築規制は簡単な建物ほど緩く、大きくて高層建物になるほど厳重だ、ということです。近時建物の基礎杭の施工偽装が問題となっていますが、建物の基礎も建物の構造の一部ですから、築造する土地の地盤に合わせて基礎工事をする必要があるわけです。特に、マンションのような大規模な建物では、すごい重量が地盤にかかることになりますから、普通の地面では必ずと言ってよいほど地盤が沈下します。そこで、地盤沈下しないように基礎杭を打って、深いところにある強固な地盤が支える形で建物の基礎工事をする必要があるわけです。

2 くい打ち工事とデータ偽装
実際の基礎工事にあたっては、まずボーリングをして地盤の調査が行われます。そして、その結果に基づいて「柱状図」というものが作成されます。これはボーリングで採取した地盤のデータが柱状なのでそう言うようですが、要するに建物を築造する予定の土地の地盤を立体的に示すものです。これを基にして、基礎工事が行われて基礎杭が打たれるわけです。ところが、この「柱状図」が正確とは限らない、という問題があります。最近では、柱状図に基づいてどのくらいの深さで固い地盤(支持層)に到達するか、を予測して基礎杭を予め作成してくい打ちをするのが一般的なようですが、それでも実際に打ってみると支持層に届かない、ということもあるようです。その場合には、現場で基礎杭を打ちなおすしかない、ということになります。そうなると、工期も間に合わないしコストもかさんでしまうので、基礎杭が支持層に到達したことにしてしまえ!というのが基礎工事の偽装、ということになります。

では、このような偽装は見抜けないのでしょうか?建物の上部構造であれば、実際に現場に行って見れば、建築確認申請どおりに作られているか確認できます。ところが、基礎工事のような下部構造は目で確認することはできません。そこで、くい打ちのデータで確認する、ということになります。実際に基礎杭を打っていくと最初は柔らかい地盤ですから、大きな力を加えなくても杭が入っていきますが、堅い支持層に到達すると大きな力を加えないと杭が打てないことになります(そのくい打ちの力を表す単位がN[ニュートン]です)。ですから、本来くい打ちのときのデータを見れば、ちゃんと支持層まで到達しているのかどうか、がわかるはずなのです。

逆に言えば、くい打ちデータまでほかのデータを流用して偽造されてしまうと、本当に杭が支持層に達しているのか、を判別することは非常に困難になります。ほかの杭のデータといちいち突合してみれば流用があるのかわかるのでしょうが、実際の問題として完工検査でそこまで検査することはなかなか困難です。
最近の報道では、くい打ちを行った業者が、データの偽装はあったけれど基礎杭は支持層に達していると釈明した、とされていますが、これは大いに疑問です。本来、ちゃんと支持層まで基礎杭が到達しているのであれば、そのままくい打ちデータを出せばよいはずですから、データを流用しているのは杭が支持層に達していないからではないか、と容易に想像できます。この点について、施工会社の方は、データを取り忘れたとか、データを誤って破棄してしまったために他のデータを流用した、という説明をしているようです。もちろんそういうことが起きる可能性は否定できませんが、そう頻繁に起きるはずはないと思われます。

3 工事偽装の法的責任
それでは、基礎杭が支持層に1本でも届いていないと建築の瑕疵になるのか、と言うとそういうこととは限りません。今回問題が発覚したのは2センチ手すりが沈下していたことに起因するようですが、これは多分1000分の1か、1000分の2くらいの傾き(10mで1cmから2cm)だと思います。ところが、1000分の1くらいの傾きであればそれ自体は建築瑕疵にあたらない可能性が大なのです。そもそも、建物を築造するときに完全に水平に作ることは案外困難で、実際には手すりを設置するときとか、床面を貼るときに水平にして調整することは珍しいことではありません。今回のデータ偽装では、建物が傾いた、ということよりも、基礎杭が16本も支持層に届いていなかったことが瑕疵(建築工事上の不具合)であり、それ故建て直しする、ということになったのだと思われます。

他方で、日本は地震国として有名ですし、日本の建築基準法は世界一厳しい、と言われています。よくテレビのニュースで、ビルが一瞬のうちに爆破されて粉々になってしまう、という動画がありますが、日本ではそんなことは考えられません。日本のビルには十分に鉄筋が入っていますから、ちょっとダイナマイトで爆破したくらいでは崩れ落ちるようなことはないのです。ですから、建築基準法も安全率を十分に見込んであって、建築基準に基づいてきちんと設計された建物は、1本や2本くらい基礎杭が不十分でも建物の強度には大きな影響がないようにできているのです。このように考えると、仮に基礎杭が1本支持層に届いていなかったとしても、直ちに基礎工事に瑕疵があって損害賠償などの法的責任が発生する、ということにはなりません。

ここが実は一番根の深い問題です。下請けや孫請けで基礎工事をする業者もそのあたりはよくわかっていますから、1本や2本くらい基礎杭が支持層に届かなくても大丈夫だ、と高をくくっている可能性があるのです。だから、こういったデータ偽造がほかの業者でも横行しているのではないか、が問題となってきているわけです。この背景には、最近のマンション工事では工期を守ること、コスト管理が厳しくなっており、そのために基礎工事のデータを流用したのではないか、という疑問もあります。ですから、こういう問題が発生したときに、元請けとか、販売会社は基礎工事にかかわっていないので、全く責任がない、ということにはならない可能性もあります。
他方で、最近の報道では、他の業者でもくい打ちデータの偽装が問題となってきているようですが、そのことが直ちに建て直しとか、損害賠償に繋がるわけではありません。

4 終わりに
日本人は、つい大手の上場会社だ、というと信用してしまう傾向があるのですが、実際に工事をするのは、その下請け、孫請けの会社です。ですから、大手が施工した会社であるからと言って工事が完全だと保証されている、ということではないのです。ただ、今回のデータ偽装問題でも大手の販売会社が対応しているように、万一問題が発生した場合、大手の販売・施工であれば、責任を取ってくれるのではないか、という安心感があることは事実です。

マンションを購入したり、家を新築したりするにあたって、本当に施工業者が信頼できるのか、は難しい判断です。基礎工事の問題でも、逆に、必要もないのに木造の戸建てで20本以上基礎杭を打って問題となった事例もあるようです。ですから、家の新築や購入にあたっては、納得のいくまで業者の話を聞いて、疑問があったら専門家に相談する、ということをお勧めします。
                                                                                  以 上

相場プロフィール

aiba
相場中行

弁護士
弁護士法人 アクトワン法律事務所