暮らしに役立つ法律用語 第6回 遺留分その(1)

遺留分とは何か?

民法は、遺言によって遺言者の財産を処分することを認めていますし、生前贈与によって財産を処分することも自由にできます。これは、自分の財産はその所有者が自由に処分できる、つまり私的自治を認めた、ということです。

他方で、遺言がない場合に誰がどのような割合で相続するかについては、民法900条、901条によって定められています。これは、被相続人の財産は、被相続人と共に家族(親族)共同体を構成している者に帰属させるべきだと考えたことによります。そうすると、遺言や生前贈与による財産処分の自由(贈与、遺贈)を無制限に認めると、家族共同体を構成している相続人の生活利益を保障するという法の意図が裏切られることとなります。
そこで民法は、法定相続人の中でも一定範囲の者に相続財産の一定割合が留保されているものとして扱い、遺言によってその一定割合が侵害された場合には、侵害された者が侵害者に対して、被相続人の処分した権利または目的物を取り戻す権利を有するものとしました。このような利益が「遺留分」であり、遺留分について取戻しを請求する権利を「遺留分減殺請求権」と言います。
 遺留分を認められるのは、法定相続人のうちで兄弟姉妹以外の相続人、すなわち、配偶者、子、直系尊属のみです。遺留分を持つ相続人がいる場合に遺留分がどれだけかについては、①直系尊属のみが相続人である場合は、被相続人の財産の3分の1②それ以外の場合は、被相続人の財産の2分の1が遺留分です。これを「総体的遺留分」といいます。
 遺留分権利者が複数存在するときには、その「個別的遺留分」は、総体的遺留分を基礎として、法定相続分に従って算出されます。例えば、Aに妻Wと子X・Y・Zがいるが、Aが自分の事業を手伝っているZに対して、自分の財産のすべてを遺言で相続させた場合の遺留分を考えてみますと、遺留分権利者は、W・X・Y・Zであり、この者たちの総体的遺留分は2分の1です。各人の個別的遺留分は、法定相続分に従い、Wが2分の1×2分の1=4分の1、X・Y・Zが各自2分の1×2分の1×3分の1=12分の1ということになります。
 遺留分について、知っておいてほしいことの一つが、遺留分の侵害があっても、侵害行為が無効となるわけではないことです。遺留分を持つ相続人が遺留分減殺請求権を行使しないと財産の取戻しは実現しません。実際、遺留分を侵害する遺言もよく見かけますから、各相続人が遺留分に対する正しい知識を持って、その権利を行使することが大切です。
 遺留分減殺請求は、訴えの方法による必要はありませんが、後に訴訟になる可能性もありますので書面で請求すべきでしょう。遺留分減殺請求が行使されると、取戻財産は減殺請求権者の固有財産になります。ですから減殺請求の相手方が返還に応じないときは、所有権に基づく目的物の返還や共有持分の移転登記手続を相手方に求めることになります。
遺留分算定の基礎財産に何が入るか、遺留分侵害額の算定方法、減殺の順序等に関しては、次回に項を改めて説明します。

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