美しい高齢者施設をつくる 第18回「サービス付き高齢者向け住宅をつくる 実施設計 共用部編」

第18回「サービス付き高齢者向け住宅をつくる 実施設計 共用部編」

 今回は次回に引き続き私の近作であるービス付き高齢者向け住宅「戸神ホームズ」の実施設計共用部編を紹介いたします。

 設計者の世界では実施設計とは「決定された基本設計に基づき、建築を実際に施工するための設計図書(設計図、仕様書、各種計算書、工事予算書など)を、作成する業務」のことを指します。これはとても専門的な内容ですので、今回紹介する記事は基本設計のコンセプトがどのように建物のデザインとして最終的に決定されたか、という視点でご覧いただければと思います。編高齢者施設の入居をお考えの方、建設をお考えの方の参考になれば幸いです。

戸神ホームズ:南より空撮

【メインコンセプト おさらい】
前回(17回)のコラムで以下の3つのメインコンセプトを決定しました。
1. 自然の恵みを感じる暮らし。
2. リゾートライフを楽しむ終の住処。
3. 長く住める「可変性」をもった住戸
メインコンセプトが主に共用部においてどのように具体化されたか説明いたします。

【森に開き、光と風を導くシンボルゾーン】
前回説明いたしましたように、施設中央にアプローチ道路から北側の森に抜ける吹き抜け空間「シンボルゾーン」を配置しています。エントランス、ラウンジ、上階へのエレベーターと階段からなる施設の中心であり、全ての動線の起点となる象徴的な空間です。

【シンボルゾーンを構成する5つのエレメント】
1)吹き抜け:エントランスから森に抜ける吹き抜け空間。
2)象徴的な壁:シンボルゾーンを支える左右の壁。
3)モノリス:エレベーターシャフトを内蔵した結界となる柱。
4)美しい階段:オブジェとなる階段 (行燈のように光る階段)
5)森のテラス:森林浴(大開口・ラウンジから段差無しで連絡) 

○シンボルゾーンイメージ図
(実施されたものと少し違いますがイメージが引き継がれています。)
○吹き抜け:目一杯森に開いたラウンジの大開口。外部に森のテラスがある。
○美しい階段:天窓から光が入り行燈のようにラウンジを照らします。
○象徴的な壁:コンクリート杉本実(ホンザネ)型枠打ち放し仕上げ。
無機質なコンクリートに浮き上がる木目が美しい仕上げです。
○モノリス:エレベーターと倉庫を内蔵した白い柱。
エントランスとラウンジの間にある「結界」で、プライバシーを守りつつ気配が伝わります。
 

【四季を感じる中庭とテラス】
シンボルルゾーンの左右に中庭を配置することで、彩光と自然の風を取りれます。中庭には住戸に至る通路や高齢者が車椅子でも気軽に中庭に出ることができるテラスを配置しています。内部廊下には要所に中庭に開いたアルコーブ(談話コーナー)を設け、廊下がコミュニケーションの場となる工夫をしています。実際の設計では竹を植えた「緑の中庭」と石庭とした「石の庭」とすることで左右の庭の性格を全く違うものにしました。

○シンボルゾーンを挟んで中庭を左右に配置します
◯竹の庭:上部に2階北側住戸に渡る廊下が横断する。
◯石の庭:右側に廊下に面したアルコーブが見える。
◯アルコーブ:廊下に面したアルコーブ(談話コーナー)。

【将来の拡張に備えた配置構成】
設東端部に将来の増築に配慮した空地を設けました。2階建てで200㎡程度の増築(住戸4戸)が増築可能にした未来を見据えた計画としました。

◯上下階で4戸の増築が可能です。

【ラウンジと隣接した食堂と図書ラウンジ】
シンボルゾーンにあるラウンジと左右に隣接した「食堂」と「図書ラウンジ」は可動間仕切りを開放することで、イベント時など一体の大きな部屋として使用することができます。また可動間仕切りを閉鎖することで個別使用時における冷暖房負荷を軽減できます。

◯ラウンジとの一体利用を考慮した計画
図書ラウンジからラウンジを介して食堂を見る。
◯ラウンジから食堂を見る。

【白木のアイランドキッチンがある食堂】
 食堂にはアイランド型のキッチンと十分な収納が用意されており、料理教室やラウンジと一体的に使った様々なイベントに対応可能です。

◯食堂:共用雨のアイランドキッチン。障子の奥は厨房です。

森の浴室
 浴室ゾーンは北側の森に面しているので緑を楽しみながら温泉気分で入浴ができます。また、将来の入浴サービスに備えて特殊浴スペースを確保しています。更衣室は介護の程度に応じた十分な広さを確保し、入浴後にくつろげる居心地の良い空間とします。機能回復訓練のためのジムが隣接しているので運動の後にすぐに入浴することができます。

◯大浴室:森を見ながら入浴ができる。
◯更衣室:木調のインテリアです。

休憩ができる中庭に面したアルコーブがあります。
 今回はここまでです。次回は「実施設計 住戸編」です。高齢者住宅に有効な「可変性」を持った住戸の詳細と、外部仕上げ、着工前に製作した実施模型等をご紹介します。