第9回「ゾーンニング計画 ?ユニットケアとは?」

しばらく間が空いてしまいました。コラムをご覧いただいている方々にはご迷惑をおかけいたしました。先月、私の設計したサービス付き高齢者向け住宅「わかたけの杜」が高齢者住宅における革新的な提案が評価され、医療福祉建築賞準賞を受賞することができました。同賞の受賞は「フロイデ彦島」に続いて2回目となります。

 

。この場をお借りしてご協力いただいた多くの方々に御礼申し上げます。コラムをご覧の方々には、この施設に盛り込まれたアイデアについても今後少しずつ紹介してまいりたいと思います。
同賞受賞のホームページは以下になります。
http://www.jiha.jp/prize.html

 2017.06 yoshida 1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真下段中央理事長の向かって右が筆者

◯住戸のゾーンニング
前回は敷地のお話をいたしましたが、今回からいよいよ建築に関わる内容についてお話をしてまいります。テーマにある「ゾーンニング」とは諸室機能の位置関係を決めることを指します。敷地が決まると、実際に建設する施設の配置をする上でゾーンニングが重要となります。高齢者住宅の場合は個室群(住戸)の配置が施設全体を決定する大きなポイントとなり、施設の良し悪しが全て決まると言っても過言ではありません。

高齢者住宅を大きく分けると、有料老人ホームやグループホーム、特別養護老人ホームに代表される常に介護が必要な方の住まい(介護型施設)と、サービス付き高齢者向け住宅のように自立した高齢者向の住まい(住宅型施設)と大きく二つに大別されます。用途として前者は「介護施設」、後者は「賃貸住宅」ということになります。

◯ユニットケアと問題点
介護施設としての高齢者住宅のゾーンニング計画は、デイサービスや小規模多機能型居宅介護が併設する複合建築となる場合ありますが、話が複雑になるので、ここでは介護施設の居住空間である「ユニットケア」に焦点を当てたいと思います。


皆さんは介護型施設の平面形式で「ユニットケア」という言葉を一度は聞いたことがあると思います。ユニットケアの定義を簡単に言うと、「5?9人程度を一つのユニットとして、の高齢者が家庭と似た環境の中で専門職員による介護を受けながら日常生活を送るための住まい」となります。例えば9人定員のユニットであれば9人+職員3人で計12人の大家族で生活するということになります。

ユニットは1フロアに2ユニット以上あることが職員の勤務割りやシフトの効率が良いと言われていますので、2ユニットの概念図を下に示しました。中央に「職員室」とありますが裏周りの管理諸室を表しています。

   2017.06 yoshida 2

                            ユニットケアの説明として使われる平面

 

上図はユニットケアの説明によく使われる概念図です。リビングを中心に個室が取り囲む求心的プランになっています。職員の目が行き届きますし、利用者にとっても個室の前がリビングなので家庭的な環境です。しかし、図をよーく見ると、リビングが中央にあるので窓が無く(平屋で天窓があれば別ですが)、四季折々の野外の景色を見ることもできません、採光や換気を考えると、生活の中心とあるリビングとしては現実的ではありません。また、大きく膨らんだ平面は都市部の狭い敷地に向いていません。

そこで多くの場合、現実的には下の図のような形で計画されることになります。

 2017.06 yoshida 3

                          一般的によく実現しているユニットケアの平面


大変まとまった形に見えますがこのまま建設すると、リビングを外壁側に寄せるのでせっかくの求心性は損なわれ、延々と続く内廊下は暗そうです。9人全員が気の合う仲間とは限りませんので、高齢者が2、3人で談笑したくても「居場所」はリビングか個室しかありません。人によっては個室に引き籠もってしまいそうです。2つのユニットは完全に独立しているので双方の交流も無く、ユニットが階層で上下に分かれる場合は完全に孤立した状態となります。介護が必要で自由に動き回ることもできない高齢者は、同じ建物に居ながら小さなユニットの中だけが社会との接点となってしまいます。外観も単調になりがちで、仕上げにこだわる程度の木賃アパートのそれとさして変わらない施設で暮らすことになってしまいます。

◯「都市的施設」をつくる
私は外出が難しく社会との接点が減る高齢者の住宅こそ「都市的」であるべきであると考えています。「都市的」とは個室から出た途端にユニットに限らず施設全体の人の気配が感じられ、適度な緊張感がある状況です。そんな空間ではみだしなみに気を使い、化粧などする人もいます。1人で本を読む人、数人で固まる人、待ち合わせる人などが集うホテルのラウンジのような状況も近いかもしれません。ユニットケアは住宅ですが、しょせん他人同士が共同生活をする場なのです。そして適度な緊張感は自分を社会の一員と感じさせ、人を生き生きさせ、認知症予防にもなります。そのためには「人の気配」が伝わり、「見る見られる関係」がある状況を空間的に作り出す必要があると考えます。

下の図は都市的ユニットケアの概念を極端に表しています。ユニットの境界が無く、で個室は独立して見え、リビングは広場、談話コーナーは喫茶店のように複数配置します。住宅から一歩出るとそこは街なのです。もちろん物理的にこのまま実現することは大変難しいですが、少しでも近づけることは可能でしょう。

 2017.06 yoshida 4

               境界が曖昧で、気配が伝わる「都市的ユニットケア」のイメージ

 

◯「施設的な建物」にならないためには。
平面が複雑になると「管理する側が動かなくても施設全体を見渡せるようにして欲しい。」、「もし事故があっても気付かないのでは。」と言われます。また、「うちはサービスやソフトでこういった欠点を補っていますから大丈夫。」とも言われます。確かにそういった努力で優れた施設運営をしている法人もたくさんいらっしゃいます。しかし私は建築における問題点は工夫で解決することができるのであれば建築とサービスとのどちらか一方ではなく、優れた建築と優れたサービスの結婚こそが理想的な施設を実現できると思うのです。

私は悪い施設を「施設的な建物」とよく表現します。簡単に言うと「運営効率が最優先で、公的な整備要綱や法律の最低基準を準拠するあまり、あからさまに機能的な空間で、無駄に広くて暗い中廊下があり、リビングと個室以外に少人数で落ち着ける居場所が無く、開口部が小さく(少なく)、仕上げ材料に気を使う程度で雰囲気だけを見繕った、いかにも高齢者施設のような建物」のことを指しています。

あからさまに機能的な建築の極端な例に刑務所があります。全く無駄がなく、監視と拘束、採光と換気に特化した機能を建築が体現していることがわかります。管理する側にとっては死角の全く無い完璧なプランですが、管理される側(犯罪者)への配慮は最低限の独房と採光・換気以外は一切ありません。高齢者住宅との比較に適していないという向きもありますが、管理する側だけに立った建築の極端な例として頭の隅に置いておくべきだと思います。

 2017.06 yoshida 5

                           あからさまに機能的な刑務所のプラン例


刑務所は極端な例として、病院もかつての白い巨塔といった機能優先の施設的建物から、最近では利用者の気持ちに寄り添った優れた病院デザインが増えてきました。同じように高齢者施設でも最近は優れた理念を持った施設が増えてきています。しかし、よく注意して周囲を見渡すと・・・・結構こういった「施設的な建物」がまだまだ巷に溢れていることがわかります。そんな施設を見るたびに私は「ここでは死にたくない」と思ってしまいます。

では、「施設的な建物」とならないためにはどうしたらよいのでしょうか?

私の実践してまいりました美しい高齢者住宅をつくるためのポイントを説明する前に、次回は住宅型施設(サービス付き高齢者向け住宅)のゾーンニングについて解説したいと思います。ご期待ください。

 

吉田明弘++++++++++++AkihiroYoshida
(株)ヨシダデザインワークショップ
代表取締役・建築家・一級建築士 
東京都文京区本駒込5−2−5-602
TEL 03-6902-0108
携帯090-3213-8277
e-mail:このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。
URL http://yoshida-dw.com

 

 

 

 

 

 

 

 

 

| 会社概要 | 個人情報
Copyright@2021.コミュニケーションバンク株式会社 All Rights Reserved.