第8回「敷地を生かす」 

今回から実際の建物を計画する上で私が重視しているポイントをお話しいてまいります。今回のテーマは「敷地を生かす」です。 敷地探しで悩まれていることと思います。

敷地が無ければ建物も建ちませんし、なにも始まりません。よく「どんな敷地が良いでしょうか?」と聞かれますが、お答えするのが大変難しい問題です。私がいくら理想的な敷地をお話ししても、実際にはそのような敷地が見つからないのが現実です。

まず用途地域や斜線制限など建築に関わる法的規制をクリアすることが大前提となりますが、高齢者福祉施設は公共公益施設ですので市街化調整区域でも建設可能ですし、ほとんどの施設が低層なので狭小地以外は法規制の影響も少なく、用途地域では工業専用地域以外(老人福祉センターは工業専用地域でも建設可能)であれば建設が可能なので敷地における法規制の影響を受けにくい建築と言えます。
むしろ問題は敷地自体の状況となります。高齢者福祉施設は行政で整備地域が決まっていますので、その地域内で敷地を探す必要があります。都市部のように土地に限りがある場合、理想的な土地が手に入るとは限りません。一方地方であっても山勝ちで変形地である場合など「ここじゃ無理だよね」と判断をしてしまいがちです。

そんな時に私は、「まず敷地を見せてください」と言います。実際に見に行くと、どんなに起伏があっても、不整形で方位に恵まれず周囲が建物に囲まれていても対応方法やその敷地が持つ魅力が見つかります。
そんな悪条件を逆手にとって施設の魅力を高めた事例を3つ紹介します。

【事例1:平場の少ない敷地に建てる】
中央を谷で隔てられた2つの尾根からなる敷地です。尾根のうち1つは平らに造成されていました。オーナーは当然に整地された側の尾根の上に施設を計画していました。しかしケアハウスとグループホーム、デイサービスからなる大型の施設であったため、当初計画されていた施設は造成された尾根上に5階建て以上の高層施設を建てるというものでした。

床面積の小さい高層建物は機能が階層で分断されて運営管理が大変です。また、日影や圧迫感など周囲の低層の住宅街への影響が大変大きくなります。海に面した景勝の地であったことから景観への配慮も必要でした。

問題を解決した方法は、3階建ての建物2棟を渡り廊下でつなぐ方法でした。構造的には大変難しいものになりましたが、環境へのインパクトを最低限にしつつ4つのアユニットを1層におさめることができました。また、広い室内はフレキシビリティがあり、様々な活動が可能になりました。

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【事例2:道路と建物に挟まれた旗竿地に建てる】
敷地は交通量の多い2つの道路に挟まれ、更に既存建物がアプローチ道路側に隣接した俗に言う「旗竿地」に、特養とグループホーム、ケアハウスからなる前例のない大規模木造(4000㎡)建築を建てる計画です。さらに管理上1フロアに3つのケアユニットを入れることが求められました。

敷地が狭いことから隣接する施設との距離が近くなり、大変窮屈な配置となってしまいます。高層にすればそれは解決されますが、1フロア2ユニットとなり運営面で問題があります。

問題を解決した方法は、6mスパンの構造を45度の角度でプランニングすることで、既存棟との間に三角形の空地をつくり、開口部の視線の交錯を避けつつ、共有リビングを静寂な3つの中庭に開くことで道路の喧騒を回避し、木造らしい細かな折れ曲がりと回遊性を持つ空間を実現しました。

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【事例3:農業用水で敷地が分断された敷地に建てる】
敷地は十分な広さがありましたが、中央に農業用水(公有地)が横切り、敷地が2つに分断されていました。当初オーナーは2棟の建物を渡り廊下で連結することを考えていました。

土地に起伏もなく、用水の問題だけで建物を2棟にすることはコストや管理面、高齢者施設の機能の多様化など、将来に大きなリスクを負うことになり、後で取り返しのつかない後悔をすることになります。

問題を解決した方法は、工程上1年程度お時間をいただくことにし、役所と水利権者と協議して用水の移動をしました。敷地種編が農地の場合用水の付け替えは大変難しい問題ですが、関係者のご協力とご理解をいただいて可能となりました。

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3つの例を紹介いたしました。ここで申し上げたかったことは、当初オーナー様が考えなかったアイデアを建築家が提案し、結果として機能的で魅力的な施設が実現できたことです。先に述べました通り理想的な敷地が見つかることの方がむしろ稀なのです。まず運営上の立地が第一で、次に敷地の形状や環境でお悩みの際は私たちのような建築家にお声掛け頂ければ敷地の持つ魅力を引き出すことができるかもしれません。

敷地に関してはその他、大都市の狭小地における「この敷地でどの程度のボリュームの建物が建ちますか?」といった質問も多く聞かれますが、もっぱら法律に縛られたギリギリの状況に対する問題解決となりますので次回以降のコラムに譲ります。

次回は施設計画におけるもう少し狭い範囲での視点として、施設と周辺環境との関係についてお話をいたします。

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